花〜繋がる世界〜
【花〜繋がる世界〜】
♂1人 ♀1人 計2人
~20分
※タイトル変更のお知らせ
タイトルを『約束を守るよ』から『花〜繋がる世界〜』に変更しました
男 ♂ 25歳
事故で体を失った
右手欠損(肘より先が無い)、下半身不全
女 ♀ 20歳
目が見えない
幼少期からだんだん目が見えなくなり、今はもう完全に見えない
――――――――
男 ♂ :
女 ♀ :
――――――――
男「うわっ!?」
―――ガシャン
―――ピーポーピーポー
男M「二年前、俺は当時働いていた工事現場で事故にあった。結構大きな事故で、ニュースにもなったぐらいだ。その事故で俺は、・・・体を失った」
男M「事故から1週間経って目覚めた俺は、生きているのが奇跡だと言われた。鉄骨の下敷きになり、右手は潰れ肘から先が無くなった。そして、脊髄損傷により下半身不全になった。残ったのは左腕一本だけだった」
男M「車いす生活を余儀なくされて2年。片手操作でも、最低限の生活は出来るようになっていた。まぁ、日常生活一つとっても、大変な作業であり時間も普通の人の何倍もかかる」
男M「仕事もできないので、今は障害者手当と事故の時に入った保険やらなんやらで生活をしている」
男「あ、そうだ。今日は福祉施設のお花見イベントだっけ・・・」
男M「そんな俺の最近の楽しみは、月2回の同じような身体障害を抱えた人との交流会だった」
男「まだ少し寒いけど、もう桜、咲いてるんだな・・・」
女「綺麗ですか?」
男「ん?・・・えぇ。すごく綺麗ですね」
女「良い香りがしますね。静かな優しい匂いがします」
男「匂い・・・ですか?」
女「えぇ」
男「日本に多いソメイヨシノは、香りはとても弱くてあまり・・・あ・・・」
女「くすっ。はい、私目が見えないんです。だから、匂いや音で感じるんです」
男「へー・・・なんかいいですね」
女「え?」
男「あ、いや・・・その。たぶん、見えている俺には見えないモノが、キミには見えているのかなって」
女「ふふっ、そうかもしれません」
男「見かけたことのない顔だけれど、ここは初めてかい?」
女「えぇ。友人に誘われて、今日初めて来たの」
男「みんな優しくていい人ばかりだろう」
女「ええ。まだあまり話せていないけど、楽しいわ。あなたとも、ぜひお友達になりたいです」
男「あ・・・あの、その・・・握手は」
女「あっ・・・ごめんなさい。いきなり馴れ馴れしかったですね」
男「そうじゃないんだ。その・・・、俺は、右手が無いんだ。だから、右手で握手はできないんだ」
女「あっ・・・そうだったんですね。ごめんなさい」
男「いや、大丈夫だよ」
女「じゃあ、左手で」
男「あぁ。ありがとう。よろしくね」
女「よろしくお願いします」
男「ははっ、なんだか変な感じだな」
女「そうなの?私は見えないから、触れることで感じるから・・・」
男「なるほどな。そーゆーことか。いいよ、こんなオジサンの手でよければどうぞ」
女「おじさん?そんな風には聞こえないけど・・・」
男「でも、キミよりは年上だと思うよ」
女「私、二十歳だよ」
男「俺は25だ。ほらな?オジサンだろ」
女「5個しか違わないよー」
男M「そう言って笑う彼女はとても綺麗で、まるで桜吹雪が彼女を中心に舞っているようだった」
女M「私は目が見えない。目を開いても暗闇が続くだけ。でも、生まれつきじゃなかったの。異変を感じたのは7歳の時、視力の低下と思っていたそれは、私から光を奪う病気だった」
女M「中学に上がる頃には、私の目は何も映さなくなった。そうなることが分かっていた私は、見えている間にいろいろな物を見ようと、いろんなところに連れて行ってもらった。その中で、花が一番好きだった。いろんな花を見た。どれもとても綺麗で・・・」
女M「目が見えなくなってからも、花は私を癒してくれた。香りと、記憶の中の色で・・・」
女「もうすぐ来る頃かなって思ってた」
男「あはは、流石だね。できるだけ物音を立てないように来たんだけどな」
女「だからよ。不自然過ぎるの」
男「あ・・・それもそうか」
女「ふふっ」
女M「あれから毎回参加するようになり、同じように毎回参加している彼とは良く話すようになった」
男「それでさ、最近は字の練習をしてるんだよ。って・・・聞いてる?」
女「ちゃんと聞いてるよ。でも私見えないから」
男「あぁ、ごめん。そっか。うーん」
女「ううん、違うの。頑張ってるんだなぁ、凄いなぁって思ってね。でも、それを見れないのが寂しいなって・・・」
男「・・・。あ、そっちは最近なにかあったかな?」
女「えっとねー・・・、最近は・・・あっ、庭にねラベンダーが咲いたよ。とってもいい香りがするの」
男「ほんとに花が好きなんだな」
女「好きよ?花は嫌い?」
男「んー・・・どっちでもないかな」
女「そっかぁ・・・」
男「でも、キミから聞く話は楽しいよ。少し花に興味を持てそうだよ」
女「ほんとっ!嬉しい・・・」
男「好きな花とか、あるのかな?」
女「んー・・・梅かな」
男「梅か・・・、食べるのは好きだよ?」
女「もうっ・・・、花はちっちゃくて可愛いんだよ」
男「見たことあるの?」
女「うん、まだ目が見えていた頃にね。他にもいろんなお花を見に連れて行ってもらったの」
男「そっか。ちゃんと覚えてるんだね」
女「うん。私の宝物」
男「じゃあ、今度一緒に花を見に行かないか?」
女「え、でも・・・」
男「大丈夫。俺がキミの目になるよ」
女「っ!」
男「・・・ダメかい?」
女「だめじゃない、よ・・・。うん、私があなたの身体になるのっ」
男「ほんとに?いいのか?・・・でも、車いす押すの、大変だよ?」
女M「彼は時々、私を驚かせることをする。でもそれは、いつも私を幸せにしてくれた」
男M「彼女との小旅行は緊張する。お互いに身体障害を抱えていることもあるが・・・、それ以上に彼女と居る事に緊張するのだ」
男M「彼女には見えるはずもないと分かっているのに、服装に気を使うあたり、もう自覚している」
女「今日はどこに行くのかしら?」
男「それは着いてからのお楽しみ」
女「けちー」
男「まぁまぁ、今回はちょっと自信あるんだ」
女「ほんとかなー?こないだは、時期間違えてて全然咲いてなかったよー?」
男「それは・・・ごめん。でも今回は大丈夫。ちゃんと調べたし、確認もしたから」
女「ふふっ、わかった」
男「あー・・・たぶんこの上か・・・」
女「いいよ。押すから案内してね」
男「あ、ありがとう。そのまま真っ直ぐで大丈夫だよ」
女「・・・後どのぐらい?」
男「んー・・・たぶん半分ぐらいかな?あ、左に曲がるよ」
女「はい。・・・あっ」
男「ん?どうかした?」
女「この匂い・・・金木犀?」
男「あはは、すごいな・・・。俺には全然わかんないや。あたりだよ」
女「・・・すごい良い匂い」
男「到着。ごめんね?重かったでしょ」
女「もぅ・・・。いつも言ってるでしょ?大丈夫って。それより・・・」
男「そうだね。今はこの金木犀だよね」
女「すごい・・・。花の中にいるみたい」
男「ここはいろんな花がいっぱい咲いているからね」
女「すごい・・・ゆっくり見て回ってもいい?」
男「いいよ。じゃあまずは右に行こうか」
男M「俺は彼女が好きだ。そして・・・きっと彼女も・・・。でも、お互いに言えないでいる。だってそれは、お互いに思ってしまっているから。自分はいつか邪魔になる、と」
男M「体の動かない俺は、生活することも難しい。目が見えない彼女もそれは同じ。お互いに足りないところを補えばいいんだと思う。でも、きっと自分じゃない普通の人といたほうが・・・。どこかでそう思ってしまう」
男M「あいまいな関係のまま、冬が訪れた」
男M「俺は、寝込むことが多くなっていた」
女「大丈夫?病院に行った方がいいんじゃないの?」
男「寝てればよくなるから・・・。でも、そうだね。今度の定期診断の時に話してみるよ」
女M「私の目は、移植をすれば治るらしい。でもそれは、手に入らない希望だった。移植を希望している患者は数万人。でも、ドナーの数は数千しかいないのだから」
女M「そんな私の元へ電話が来たのは、冬の寒い日のことだった。『ドナーが見つかった。』私はすぐに病院に向かった」
女M「夢のような、諦めていた希望に光が灯る」
男M「医者から告げられたのは、余命1ヶ月というあまりに残酷な答えだった。事故により、臓器にも大きなダメージを負っていた俺の身体は、機能しなくなりもうダメだと告げられた」
男「あの事故は俺から本当に何もかもを奪っていくらしい・・・。でも一つだけ・・・、残せるものが・・・あるなら・・・」
女M「十年ぶりに光を感じる。まぶたを開けると、そこに暗闇はなく、白く輝く世界が広がっていた」
女「み、見える・・・見えるよっ!見えるよ先生!」
女M「もう見ることはないと思っていた世界。それをもう一度見ることが出来た。どこの誰かもわからないドナーになってくれた方に心の底から感謝をする」
女M「一人おおはしゃぎな私の前に差し出される一通の封筒。そこには少しいびつな、でも見やすいように大きな平仮名で、私の名前ともう一つ。私の大好きな人の名前が書いてあった。そして・・・」
男『おれがきみのめになるよ』
女「うそ・・・うそ・・・うそっ・・・」
女M「とても短い手紙。でも、私は全てを悟った」
女M「手紙には一輪の梅の花が添えられていた」
女「今、私には夢がある。それは、画家になることだ」
女「目が見えなかった私は、絵なんてもうずっと描いていない。それでも、私には描かなきゃいけない世界がある」
女「私には二つの世界が見えるから。音で、匂いで、心で感じる私の世界」
女「そして、・・・彼から貰った、目で見て色を感じられる、彼の世界」
女「私は、これからも彼と生きていく」
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