殺し屋と死にたがり少女

【殺し屋と死にたがり少女】 

♂1人 ♀1人 計2人 

~30分 

 

ラーフ ♂ 20代半ばぐらい 

誰もがその名を恐れる殺し屋・通称『ハデス』 

受けた依頼は一度も失敗したことはないと言われる。 

 

エリサ ♀ 15歳 

名家のお嬢様で、欲しいものはなんでも与えられ、なに不自由なく暮らしてきた。 

しかし、学校に習い事、友達や恋人、結婚相手さえも親に管理される生活に耐えられなくなり、家を抜け出した。 

 

 

―――――――――――― 

ラーフ ♂ : 

エリサ ♀ : 

―――――――――――― 

 

エリサ「ハァッ・・・ハァッ・・・」 

 

エリサM「まだ追ってきてる・・・?もうだめ・・・足が・・・」 

 

エリサ「きゃぁっ!?」(何かにつまずいて転ぶ) 

 

ラーフ「・・・んー?なんだ?」 

 

エリサ「いったた・・・。あ、あの、ごめんなさいっ!こんな所に人が寝てるなんて思ってなくて・・・」 

 

ラーフ「あぁ大丈夫だ。ん・・・?どうしたんだ、そんなに震えて?」 

 

エリサ「な、なんでもないです。もう行きますね!」 

 

ラーフ「お前、追われてたのか?」 

 

エリサ「迷惑はかけませんから!」 

 

ラーフ「寝てるところを起こされたんだがな?」 

 

エリサ「それはごめんなさいっ!走ってて、気が付かなくて・・・」 

 

ラーフ「・・・そんなに怯えなくても、もう追ってきてないと思うぞ?」 

 

エリサ「え?・・・なんでそんなことがわかるんですか?」 

 

ラーフ「追ってきてるなら足音でもするだろ?」 

 

エリサ「・・・・・・ないですね。でもなんで・・・?」 

 

ラーフ「今は俺がここのヌシだからな。この一角には裏の住人もむやみには立ち入らないさ」 

 

エリサ「あなたの所有地ってこと?」 

 

ラーフ「ハハッ、所有地か。まぁ、そんなところだ」 

 

エリサ「そうだったのですね・・・。勝手に入ってごめんなさい。(・・・あ、あの)」 

 

ラーフ「あぁ。お前も早くいけ、ここはお前みたいなガキが来るような世界じゃないぞ」(被せて) 

 

エリサ「あのっ!あなた、この辺には詳しいの・・・ですよね?」 

 

ラーフ「・・・なんだ?」 

 

エリサ「私は人を探しているの・・・。『ハデス』って呼ばれてる殺し屋。何か知りませんか?この辺りにいるって聞いたのだけど」 

 

ラーフ「・・・・・・」 

 

エリサ「ごめんなさい。忘れてください。・・・すぐ出て行きますね」 

 

ラーフ「・・・『ハデス』は俺の殺し屋としての名だ。名乗った覚えはないんだがな・・・」 

 

エリサ「え・・・?・・・あ・・・でも、そっか・・・」 

 

ラーフ「ん?なにがだ?」 

 

エリサ「あなたがハデスだから・・・ここには誰も近づかないのかなって・・・」 

 

ラーフ「まぁ、な・・・それで?俺に用があったんだろ・・・、依頼か?」 

 

エリサ「・・・そうよ。殺してほしい人がいるの」 

 

ラーフ「はぁ・・・あのな、俺はガキの(お願いを聞いてやるために殺し屋をやってるわけじゃ)」 

 

エリサ「お金ならあるわっ!」(被せて) 

 

ラーフ「っ!?・・・なんでこんな大金もってるんだ?」 

 

エリサ「二百万あるわ」 

 

ラーフ「そうじゃない。なんでそんな大金を、キミのような(少女が持っているのかと)」 

 

エリサ「今はこれしかないけど、お金ならいくらでも用意できるわ!だから!・・・・・・だから、お願いします。・・・・・・私を殺して・・・」(被せて) 

 

ラーフ「っ・・・・・・しまえ」 

 

エリサ「なんで・・・?あなたは殺し屋でしょう?お金ならちゃんとある、それは証明できたでしょ?・・・なのになんで・・・なんで・・・?」 

 

ラーフ「こんな場所で大金を出して、変なやつらに見られたらどうするんだ?また追いかけられたいのか?」 

 

エリサ「受け取ってよ・・・。お願い・・・お願いだから・・・私を・・・」(泣き崩れる) 

 

ラーフ「それはできない」 

 

エリサ「殺して・・・お願いします・・・。私を殺してください・・・」 

 

ラーフ「・・・・・・俺は、殺さない殺し屋なんだ。だからキミの依頼は受けられない」 

 

エリサ「・・・そんな出鱈目で誤魔化そうとしないでよ」 

 

ラーフ「悪いが、出鱈目じゃないんだ。俺は、人を殺さない」 

 

エリサ「意味わかんないよ・・・だって!伝説の殺し屋なんでしょ!何人も殺して!殺して・・・だから!」 

 

ラーフ「・・・それは昔の話だ。俺はもう人は殺さない。・・・殺せないんだよ」 

 

エリサ「・・・うそ。・・・うそでしょ?ねぇ・・・うそって言って・・・殺して・・・ころしてよ・・・」 

 

ラーフ「落ち着け。なんでキミはそんなに殺されたがるんだ?」 

 

エリサ「・・・・・・それは」 

 

ラーフ「キミがどうしても死にたいことはわかった。なら、殺せない殺し屋なんかより、殺人鬼や通り魔にでも頼めば良いだろう?そうすればお金もかからない」 

 

エリサ「・・・だめ。それじゃダメなのっ!」 

 

ラーフ「・・・・・・」 

 

エリサ「死ぬのが怖いの・・・。でも、生きるのも辛い・・・」 

 

ラーフ「その服や大金を持っていることから考えて、キミは貴族など良い所の娘だろう?」 

 

エリサ「そうよ・・・。コックスって言えばわかるでしょ?」 

 

ラーフ「この辺りでコックスといえば、公爵家じゃないか。そのご令嬢が殺してほしいと・・・?虐待・・・は受けているようには見えないな」 

 

エリサ「えぇ。別にひどい事なんかされてないわ。・・・欲しいものは何でも手に入る。一流の教育もピアノレッスンもできる」 

 

ラーフ「じゃあ、勉強が嫌いだからか?」 

 

エリサ「いいえ、勉強は好きよ。知らないことを知れるのは楽しいじゃない。でも・・・、知ることしかできないのよ、私は」 

 

ラーフ「どういうことだ?」 

 

エリサ「私はお父様のお人形なの。綺麗なドレスを着て、お父様の望むままに生きて、お父様を喜ばせる人形」 

 

ラーフ「・・・・・・」 

 

エリサ「私には自由なんてないの。外出できるのはお父様と一緒にだけ。お友達も作らせてもらえない、外の世界の事は知識でしか知らないの。私と同じくらいの子たちは、友達と毎日遊ぶのでしょう?一緒に服を見に行ったり、カフェでお茶したり・・・」 

 

ラーフ「さぁな。キミぐらいの子がどんな生活をしているかは知らないが。屋敷から抜け出せたなら、遊べばいいじゃないか。自由を得て、お金もある。なぜ死のうとする?」 

 

エリサ「・・・すぐにお父様は私を探し始めるわ。人が集まるようなところに居ればすぐに見つかっちゃう。連れ戻されたら、もう次はないの・・・。だから私を殺して。エリサを・・・お父様の人形じゃなくて、エリサの事を殺して・・・」 

 

 

ラーフ「・・・・・・はぁ。・・・行くぞ」 

 

エリサ「ちょっと!?いたっ・・・」 

 

ラーフ「悪い、つい力を入れ過ぎた。付いて来い」 

 

エリサ「いきなりなんなのよっ!?」 

 

 

 

エリサ「これって・・・」 

 

ラーフ「あとは、これと・・・こうか?ぷっ、あはは・・・印象変わるな・・・完璧だ」 

 

エリサ「なんで男物なのよ・・・?」 

 

ラーフ「あんな目立つ格好で居て捕まりたいのか?」 

 

エリサ「そうじゃないけど、これは違うでしょ!?」 

 

ラーフ「何が違うんだ?だれもお前を公爵家の娘だなんて思わないぞ。そもそも男の子だからな」 

 

エリサ「・・・ねぇ。何がしたいのよ?」 

 

ラーフ「ん?そーだな・・・、とりあえず飯にするか」 

 

エリサ「答えになってないわよっ!」 

 

 

 

エリサN「服を買って、ご飯を食べて、街をぶらぶらして。夜になり、最初の路地裏とは違う安いホテルに入った」 

 

ラーフ「疲れただろ、ここで寝てな」 

 

エリサ「あ、ありがとう。・・・ねぇ、どこか行くの・・・?」 

 

ラーフ「あぁ、ちょっとな。なんだ?一人じゃ寂しいのか?」 

 

エリサ「ち、違うわよっ。あの路地に戻るの?・・・っ!もしかしてお父様に言いつける気!?」 

 

ラーフ「違う。もしそうなら、最初からそうする。男装なんかさせる必要もないだろう。朝までには戻るさ」 

 

エリサ「そぅ・・・ね。わかったわ、おやすみなさい」 

 

 

 

エリサN「ここにきて一週間がたった。毎日のように街に出て、初めての体験をして・・・。私は生まれて初めて、心の底から楽しいと思える日々を過ごしていた」 

 

エリサ「ねぇラーフ、今日は何処に連れて行ってくれるの?あっ、そうだっ!お魚さんがたくさんいるところがあるんでしょ?そこに行ってみたいわっ!」 

 

ラーフ「もう少し寝かせてくれ・・・」 

 

エリサ「毎晩どこに行ってるの?」 

 

ラーフ「・・・仕事だ」 

 

エリサ「帰ってくるのはお日様が昇る頃だもんね・・・。はぁ・・・もういい。知らない」 

 

ラーフ「・・・すー・・・すー・・・」 

 

 

エリサ「~~♪~~♪(鼻歌)もうこの辺りのことは覚えたもんねっ!この道を真っ直ぐ行くと、お花屋さんっ♪反対側にはパンケーキの美味しいお店!でも、この道はここまで。昨日の朝方、この奥の廃墟で火事があったから通れないの・・・。近道だったのになぁー・・・」 

 

エリサ「無事、駅に到着♪電車はまだ乗ったことはないけど・・・。切符を買えば大丈夫・・・のはず・・・。きゃぁっ!?」 

 

エリサ「ご、ごめんなさいっ!私、ぼーっとしてて・・・ごめんなさい。ごめんなさい・・・」 

 

エリサM「おろおろしてて人にぶつかっちゃった。すぐに謝ったけど、すごく顔を見られてた気がする・・・。何かおかしいところでもあったのかしら・・・?んー・・・?えっ!うそ・・・」 

 

エリサ「これって・・・わたし・・・」 

 

ラーフ「行くぞ。深くかぶってろ」 

 

エリサ「ラーフっ!?」 

 

ラーフ「黙ってついて来い」 

 

 

ラーフ「ここまで来れば大丈夫か・・・」 

 

エリサ「さっきのあれ・・・」 

 

ラーフ「あぁ。キミの考えてた通りだったよ。この街にも昨日から貼られ始めた」 

 

エリサ「そっか・・・。さっき顔をじろじろ見られたわ。きっといろんなところに私の顔が貼られてるんでしょう?少し男装したぐらいじゃ、気付かれるのも時間の問題・・・なのね・・・。ねぇ、ラーフ・・・私を殺してはくれないの?」 

 

ラーフ「水族館に行きたいんだろう?行くか?」 

 

エリサ「・・・いい。ホテルに戻る」 

 

ラーフ「・・・そうか」 

 

 

エリサM「ホテルに戻ってもラーフとは何も話さないまま夜になって、ラーフはまたどこかへ出かけて行ってしまった」 

 

エリサ「・・・楽しかった・・・な。・・・明日になったら、大人しく帰ろう。このままここにいたら、迷惑がかかるだけだもん」 

 

エリサ「ラーフのおかげで・・・やってみたかったことはできた。もう思い残すことなんて・・・ない・・・。ない・・・から・・・」 

 

 

 

エリサ「・・・らーふ?・・・おはよう。おかえりなさい」 

 

ラーフ「すまない、起こしてしまったか?」 

 

エリサ「出るの?」 

 

ラーフ「あぁ。もうここに戻ることもないだろうな」 

 

エリサ「そっか・・・。(あっあのね、ラーフ)」 

 

ラーフ「エリサ、キミはまだ死にたいと願うか?この俺に殺してほしいと。依頼をするか?」(被せて) 

 

エリサ「え・・・?」 

 

ラーフ「公爵家の娘に戻るか?それとも、死にたいか?」 

 

エリサ「・・・わかんない・・・わかんないよっ!・・・ちゃんと決めてたの!捕まるしかないなら、自分からお父様のところへ戻ろうって・・・。じゃないとラーフに迷惑がかかるから・・・。一週間・・・すごく楽しかったの。何もかも初めてで、ずっと憧れだった外の世界を見て回れて・・・。ありがとうって・・・言ってから・・・。出るつもりだったの・・・」 

 

ラーフ「どうしたいんだ?」 

 

エリサ「戻りたくない・・・。もうお人形には戻りたくない!・・・でも。死ぬのも怖い・・・。もっともっと知らないことを知りたい。行ったことのない場所にも行きたい・・・。ごめんなさい・・・そんなの無理なこと・・・分かってる・・・わかってるの・・・」 

 

ラーフ「出かける準備をしろ、お前の家に行くぞ」 

 

エリサ「・・・何をする気?お父様を殺すの!?」 

 

ラーフ「ははっ。殺せない殺し屋が、お前の親父さんを殺せるのか?」 

 

エリサ「じゃあ・・・何をするの・・・?話なんてしても無駄よ・・・。そんな簡単なことじゃないわ・・・」 

 

ラーフ「さぁな?」 

 

エリサ「お願い!やめて!・・・私すっごくあなたに感謝してる。だから・・・もう私のことはいいの・・・。十分満足したから・・・。お願い・・・」 

 

ラーフ「チッ・・・めんどくせぇな。・・・よっと」 

 

エリサ「やっ!やめて!下して!屋敷には私一人で戻るから!ダメ!お願い・・・あなたは殺し屋なのよ・・・。お父様に会ったら、捕まってしまうかもしれないのっ!」 

 

ラーフ「俺に捕まってほしくないなら、大人しくしろ。騒げば、注目を集めるだけだぞ?そうなれば、公爵家の御令嬢と殺し屋、仲良く捕まるだけだぞ?」 

 

エリサ「・・・・・・なんで。・・・こんなこと・・・」 

 

ラーフ「自分で歩けるな?」 

 

エリサ「・・・・・・」 

 

 

 

エリサ「ねぇ・・・私は男装したままお父様に会うの?せめて、お父様の好きそうな恰好をしていた方が・・・」 

 

ラーフ「良いから大人しくついて来い」 

 

エリサ「黒い服の人がいっぱい・・・。これって・・・」 

 

ラーフ「ここならよく見えるな」 

 

エリサ「お葬式・・・?」 

 

ラーフ「あぁ。エリサ・コックス。コックス公爵家のご令嬢のお葬式だそうだ」 

 

エリサ「え・・・?だって・・・、私は・・・ここに・・・」 

 

ラーフ「これで依頼は完了だ」 

 

エリサ「どうなってるの・・・?」 

 

ラーフ「あの棺の中にはキミが着ていた服だけが入っているのだろうな」 

 

エリサ「・・・服だけ?」 

 

ラーフ「正確には燃えてかろうじて残ってる服の一部だな」 

 

エリサ「あっ!」 

 

ラーフ「気付いたのか?ちゃんとした教育を受けていたからか?流石だな」 

 

エリサ「あの二日前の廃墟の火事は・・・ラーフがやったのね?」 

 

ラーフ「あぁ、その通りだ。キミがそこを根城にし、謝って発火。廃墟と共に死体は灰になり、残ったのは服の一部。そして、今日がその火事で亡くなったエリサ・コックスの葬儀というわけだ」 

 

エリサ「・・・私が死んだ。エリサが・・・死んだ」 

 

ラーフ「あぁ、俺は殺さない殺し屋。だから、キミの依頼通りにコックス家のエリサは殺した。これで今日からキミは自由だ。人形じゃなく、ひとりの人間だ」 

 

エリサ「・・・私は、自由・・・」 

 

ラーフ「選択肢はいくらでもある。新しい生活をするには少ないが、お金も持っているだろう?好きに生きればいいさ」 

 

エリサ「え?でもこのお金は・・・」 

 

ラーフ「俺がいつ依頼を受けると言ったんだい?これは俺が勝手にやったこと。そうだろ?」 

 

エリサ「・・・なんで、そこまでしてくれるの?」 

 

ラーフ「ただの気まぐれだ・・・」 

 

エリサ「嘘っ!気まぐれで殺し屋がこんなことしない!」 

 

ラーフ「俺は普通の殺し屋じゃないからな」 

 

エリサ「・・・わかった。私ラーフについていく」 

 

ラーフ「はぁ!?何言ってるんだ。せっかく自由になれたんだぞ?好きなように生きれるんだぞ?」 

 

エリサ「そうよ。だから、私はラーフに恩返しがしたいの。何ができるかはまだわからないけど・・・きっと役に立つわっ!」 

 

ラーフ「・・・住む場所も無ければ、生活も安定しないぞ?」 

 

エリサ「構わないわ。いいえ、それでいいじゃない!だって、私はいろんなことを知りたいんだもん。いろいろなところに行って!普通じゃできない生活をして!楽しそう!」 

 

ラーフ「はぁ・・・。ったく、しょうがねぇな・・・」 

 

エリサ「あっ!そうだ!ねぇ、私名前が欲しいわ」 

 

ラーフ「名前?」 

 

エリサ「そう、名前よ。だって、エリサは死んだんでしょ?でも、人間には名前が必要だわ」 

 

ラーフ「まぁ・・・そうだな・・・。なら好きな名前を名乗ればいいさ」 

 

エリサ「ラーフに付けて欲しいの!」 

 

ラーフ「なんで俺が・・・」 

 

エリサ「あなたが私を生まれ変わらせてくれたの!だから名付け親になってよ!お願い!」 

 

ラーフ「はぁ。・・そうだな。じゃあ今日からお前は―――――」 

 

 

 

 

 

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